生成AIが多くの企業で利用されている昨今。今回はビジネスで利用する際にテーマに上がる「ファインチューニング」について解説します。
ファインチューニングって何?
LLMによってはできないものもあるの?
ファインチューニングに必要なスキルは?
この記事を読むことで、上記のような疑問やニーズが解決します。
ファインチューニングは、生成AI(LLM)を自社好みにカスタマイズする方法の一つです。自社サービスに組み込んだり、ビジネスに特化したモデルを作成したりする際に必要となる手法です。
こんにちは、シントビ管理人のなかむーです。
今回の内容は生成AIで良く耳にする「ファインチューニング」です。実際にやることはなくても、手法を理解しておくことは重要です。
今回も文系目線でわかりやすく解説していきます。
この記事を読むことで以下のことがわかります。
- ファインチューニングとは?概要や活用例
- ファインチューニングのメリット・デメリット、注意点
- ファインチューニングができるLLM、できないLLM
ファインチューニングについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
LLMのファインチューニングとは?

「ファインチューニング(fine-tuning)」とは、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)に対して、特定の目的や用途に合わせた追加学習を行い、モデルをカスタマイズする手法です。
すでに大量のデータで学習済みの汎用モデルに対して、少量の特定データを用いて再学習を行うことで、特定の分野や文体、業務に特化した応答を実現できます。
たとえば、一般的なLLMに「医療に関する問い合わせ応答のデータ」を追加学習させれば、医療用語に詳しいモデルに変化します。あるいは、企業のFAQや社内文書で学習させれば、自社専用のAIチャットボットとして使うことも可能です。
なぜファインチューニングが必要なのか?
一般的なLLMは非常に多用途ですが、「どんなことにもそこそこ詳しい」程度の性能です。つまり、専門性や一貫したスタイルが求められる場面では、出力がやや曖昧だったりブレが生じたりすることがあります。当然社外秘の企業情報は知る由もありません。
こうした課題を解決するためにファインチューニングを行うと、より高精度で一貫性のある応答が得られるようになります。
さらに、プロンプト(指示文)だけでは制御しきれないような文体の調整や、繰り返しの操作削減といった面でも効果が得られるでしょう。

ファインチューニングでできること・活用例

ファインチューニングは「一貫性のある応答」「より高い精度」「業務ニーズへの最適化」を実現するために有効なアプローチの一つです。具体的な活用例を紹介します。
顧客対応に特化したチャットボットの構築
ファインチューニングを活用することで、自社の製品やサービス内容に特化したチャットボットを構築できます。FAQや対応履歴などを学習させることで、より的確で自然な対応が可能になります。
問い合わせの自動化やカスタマーサポートの効率化に役立つ、代表的な活用例です。
現段階で一番ニーズの強い分野の一つでしょう。
特定分野に強いAIアシスタントの作成
医療・法律・教育など、専門的な知識が求められる分野では、ファインチューニングによって高精度な応答が可能になります。
たとえば、医療機関向けに医療用語や患者対応に配慮したAIを構築すれば、スタッフの補助として有効に活用できます。
ただし最近のAIは本当に賢くなってきたので、世界中のあらゆる分野に精通してきています。
独自のキャラクターを持つAIの開発
エンタメや教育分野では、特定の話し方や性格を持ったAIキャラクターが活用されています。ファインチューニングを通じて「元気な語り口」や「優しい先生風の話し方」などを学習させれば、ユーザー体験を向上させるオリジナルAIを作ることができます。

ファインチューニングのメリットとデメリット

ファインチューニングを行なう際のメリットとデメリットを解説します。
ファインチューニングのメリット
応答精度の向上
ファインチューニングを行うことで、モデルが特定の分野や用途に対してより適切な回答を返せるようになります。例えば、医療や法律といった専門分野に特化したデータで学習させれば、専門用語や業界特有の表現にも対応でき、実用性が大幅に向上します。
カスタマイズ性の高さ
ファインチューニングでは、語調や文体、出力のフォーマットなどを柔軟に調整できます。たとえば、丁寧な敬語で話すAIや、方言で話すAI、特定のキャラクター口調で応答するチャットボットなども実現可能で、用途やブランドに合った出力が得られます。
プロンプトの工夫が不要になるケースも
通常の利用では、求める応答を得るために複雑なプロンプト設計が必要になることがあります。しかし、ファインチューニングによってモデルそのものに目的を反映させれば、シンプルな入力でも適切な応答が得られるようになるでしょう。
同じ入力に対して一貫した出力が期待できる
ファインチューニングを施すことで、同じ質問や命令に対して毎回似た傾向の出力を返すようになりやすくなります。特に定型文の生成や業務対応のように、一貫性が求められるケースで大きな効果を発揮します。
会社では従業員によって、生成AIへのリテラシーに差があるでしょう。しかし、うまくファインチューニングすれば、その差をなくすこともできます。
ファインチューニングのデメリット
開発・運用コストがかかる
ファインチューニングには高性能なGPU環境や十分な学習データが必要となるため、個人や小規模チームにとってはコストが大きな負担となる場合があります。クラウドサービスを使う場合も、学習や推論に応じた料金が発生します。
技術的な知識が求められる
ファインチューニングには、機械学習の基本知識やPythonによる開発スキル、ライブラリの活用スキルなどが必要です。手順をなぞるだけでは思うような結果が得られないことも多く、一定の学習コストを伴います。
過学習・バイアスのリスクがある
偏ったデータや量が不十分なデータで学習させると、特定の回答に偏る「バイアス」や、特定のパターンにしか対応できなくなる「過学習」が発生することがあります。データ選定と検証は非常に重要です。
モデルサイズによっては取り扱いが困難
大規模な言語モデルは数十GB以上のサイズになることもあり、一般的なパソコンでは取り扱えません。ストレージやメモリだけでなく、モデルの読み込みや実行にも高い計算リソースが必要になります。
常に最新ではない可能性
ファインチューニングされたモデルは、学習時点の情報で固定されるため、Web検索などと違って最新の情報には対応できません。定期的な再学習や、別手段での情報補完が必要になることもあります。
ある程度の規模がある中規模以上の会社には適していますが、小規模な会社や個人には向いていないと言えるでしょう。

ファインチューニング以外のカスタマイズ方法

多くの方は、ChatGPTやClaude、Geminiを利用しており、ファインチューニングができないでしょう。そこで、LLMの出力を自分好みにする4つの方法を解説します。
1. プロンプトエンジニアリング
プロンプトエンジニアリングとは、AIに対する指示文(プロンプト)を工夫して、出力をコントロールする方法です。たとえば「丁寧な敬語で答えてください」や「3つの箇条書きでまとめて」など、具体的に伝えることで、求める回答を得やすくなります。特別な知識が不要で、すぐに実践できるのが魅力です。
プロンプトエンジニアリングの手法はこのメディアでも多く取り上げています。ぜひ参考にしてください。
2. RAG(Retrieval-Augmented Generation)的アプローチ
RAGとは、AIが回答を生成する際に、外部の情報をリアルタイムで参照する仕組みです。難しく聞こえますが、ChatGPTにPDFやテキストを読み込ませて回答させる方法もRAG的な使い方の一例です。
ファインチューニングのように学習させるのではなく、「都度参照」で情報の柔軟な活用ができます。
Web検索は最も簡単なRAGですね。
3. カスタムGPT(GPTs:ChatGPTの専用機能)
ChatGPTには「GPTs」という機能があり、専門知識がなくても自分専用のAIアシスタントを作成できます。設定画面で用途や口調、役割などを指定するだけで、業務用のボットや趣味に特化したAIなどを簡単に作れます。
ファインチューニング不要で導入できる、初心者に最適な選択肢です。
4. ChatGPTの「メモリ」機能を活用する
ChatGPTには、ユーザーの好みや過去のやりとりを記憶し、今後の回答に反映するメモリ機能があります。これにより、「毎回同じことを説明する」手間が減り、やりとりがスムーズになります。設定画面からオンにするだけで使えるため、専門的な準備は不要で、誰でも手軽にカスタマイズ効果を得られます。

ファインチューニングができるモデル/できないモデル

生成AIのファインチューニングは、どのモデルでも自由にできるわけではありません。
モデルごとに提供元の方針やライセンスが異なり、「ファインチューニングできるかどうか」には大きな違いがあります。
ここでは代表的なモデルを取り上げ、ファインチューニングの可否を整理します。
ファインチューニングの可否を左右する3つ要素
ファインチューニングの可否について、LLM側の要素は主に3つあります。
- モデルの公開状況
ソースコードや重み(パラメータ)が公開されていないと、ファインチューニングはできません - ライセンスの制約(商用利用・再配布など)
技術的には可能でも、規約上禁止されているケースがあります - 提供元の方針
ChatGPTなどは、別のカスタマイズ方法を提供しており、ファインチューニングはできません。
ファインチューニングの可否まとめ(代表モデル)
以下に代表的なLLMを掲載し、ファインチューニングの可否について紹介します。
モデル名 | 提供元 | ファインチューニング可否 | 備考 |
---|---|---|---|
ChatGPT | OpenAI | ❌ 不可 | API利用前提。ファインチューニングは非公開 |
Claude | Anthropic | ❌ 不可 | カスタム指示のみ対応。学習不可 |
Gemini | ❌ 不可 | API利用のみ。モデル重みは非公開 | |
LLaMA / LLaMA 2/3 | Meta | ✅ 可能 | 商用利用には申請が必要。活発なコミュニティ有 |
Mistral | Mistral AI | ✅ 可能 | 軽量モデルあり。LoRA対応も豊富 |
Falcon | TII(UAE) | ✅ 可能 | 商用利用可。教育・研究分野での実績あり |
Bloom / BloomZ | BigScience | ✅ 可能 | オープンソースで自由にファインチューニング可 |
Bert / RoBERTa等 | Hugging Face | ✅ 可能 | 主に分類タスクなどで利用 |
クローズドモデルでは「代替手段」が主流
OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeなどは、ファインチューニングができませんが、代わりに以下のようなカスタマイズ機能が提供されています。
- カスタムGPT(GPTs):口調や用途に合わせて自分専用のGPTをGUIで作成可能
- ChatGPTの「メモリ」機能:過去のやり取りを学習し、より自然な応答へ
- Claudeのカスタム指示:人物像や目的に沿った回答調整が可能
これらはファインチューニングほどの自由度はないものの、初心者でも扱いやすく、コストも抑えられるというメリットがあります。
オープンモデルを使えば個人でも挑戦可能
LLaMA、Mistral、Falconといった、オープンなLLM(大規模言語モデル)であれば、Google ColabやローカルPCでのファインチューニングも可能です。特にLoRA(軽量学習手法)などを活用すれば、GPUリソースが限られていても実現しやすくなっています。

個人でもできる?実現難易度とリソース

ファインチューニングというと「専門家や企業しかできない」と思われがちですが、現在は個人でも実現可能な環境が整いつつあります。ただし、まったくの初心者がいきなり始めるには、いくつかのハードルがあるのも事実です。
ここでは、個人でファインチューニングを行うために必要なスキルやリソース、難易度の目安を紹介します。
必要なスキル・知識
最低限、以下のような基礎知識が求められます。
- Pythonの基本操作
スクリプトの実行やパッケージのインストール - 機械学習・深層学習の基礎
モデルの学習や評価の仕組み - Hugging Faceなどのライブラリの利用経験
Transformers、Datasets、PEFTなどを使えるとスムーズ - Linuxコマンドの基礎知識(ローカル or クラウド環境)
これらが全く初めてという方にとっては、ややハードルが高く感じられるかもしれません。ただし、最近ではチュートリアルやYouTube解説も豊富で、独学での習得も可能です。
必要なリソース(PC・クラウド・ツールなど)
ファインチューニングを行なうには、以下のような環境や準備が必要です。
1. 開発環境
- ローカルPC
- GPUが搭載されていれば理想(VRAM16GB以上推奨)
- Macや非GPU環境でも軽量モデルやLoRAでの学習は可能
- クラウドサービス
- Google Colab(無料プランでも簡易学習は可能)
- Kaggle、Paperspace、AWS、Azure なども選択肢
- GPU使用には一部課金が必要(1時間あたり数十円〜)
2. 学習データ
- 数百~数千件の高品質なテキストデータが理想
例:社内FAQ、商品説明、チャットログ、ブログ記事など - データの整形(CSV/JSONなど)も必要
3. 使用ライブラリ・フレームワーク
- Hugging Face Transformers/PEFT(LoRA用)
- PyTorch(多くのチュートリアルで使われる)
- データローダー(pandas, datasets など)
難易度の目安
レベル | 内容 | 難易度 | コメント |
---|---|---|---|
初心者 | RAG GPTs メモリ機能 プロンプトの工夫 | ★☆☆ | 簡単・ノーコードでOK |
中級 | LoRAによるファインチューニング(Colab) | ★★☆ | 少しのコーディングと基礎知識で可能 |
上級 | 本格的なモデルの再学習 | ★★★ | リソース・知識ともに高度になる |
ファインチューニングは、個人でも挑戦できる時代になっています。特に軽量ファインチューニング手法(LoRAなど)の普及により、以前よりずっと手軽になりました。
ただし、いきなり高度なモデルに取り組むのではなく、まずは小規模なデータセットやクラウド環境でのLoRA学習から始めるのが現実的です。チュートリアルなどを参考にしながら、段階的にスキルと理解を深めていきましょう。

ファインチューニングを行う際の注意点

最後に、ファインチューニングを行う際の注意点を解説します。
データの質が出力の質を決める
ファインチューニングでは、学習に使うデータの内容がそのままモデルの応答に反映されます。誤字脱字や偏った情報を含むデータを使うと、出力結果にもその問題が現れる可能性があります。
十分に整理され、正確で一貫性のあるデータを準備することが、精度の高いモデルを作るうえで非常に重要です。
モデルのバイアスや過学習を避ける
特定のパターンや偏った情報ばかりで学習させると、モデルがその内容に極端に引っ張られ、バイアスがかかったり過学習を起こしたりするリスクがあります。その結果、汎用性のない出力になることが起こりえます。
できるだけ多様性のあるデータを使い、定期的にテストを行いながらバランスを取ることが大切です。
商用利用にはライセンス確認が必須
ファインチューニングを行う際には、使用するモデルのライセンスにも注意が必要です。たとえ技術的にファインチューニングが可能でも、商用利用や公開が制限されている場合があります。
特に企業利用や外部提供を検討している場合は、事前にライセンス条項をしっかり確認しておきましょう。

生成AIスキルを高めたい方はスクールもおすすめ!
生成AIを使いこなして、「スキルアップしたい」「転職したい」「副業したい」という方は生成AIのスクール受講がオススメです。
実践的な内容が学べたり、転職支援が受けられたりと、独学で学ぶよりも効率的です。興味がある方は以下の記事を参考にしてください。
LLMをカスタマイズして、ビジネスに活かそう
この記事ではLLMをカスタマイズする手法「ファインチューニング」について解説しました。実際のところ、個人の方や小規模の企業ではファインチューニングを行うのは難しいでしょう。
一方で、手法として理解しておけば、その他のカスタマイズ方法の「RAG」や「メモリ機能」、「GPTs」などの理解が進むでしょう。
自分に最適なカスタマイズ方法で、LLMを活用してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!